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NAGAKU People vol.2 : 『“黒染めして使い続ける”を常識に。服に新たな価値を生み出す伝統技法の革新』 KUROZOME REWEAR FROM KYOTO「K」荒川優真

モノが長く使われる社会の実現を目指すナガク株式会社が運営するウェブマガジン「NAGAKU Magazine」では、その文化を体現するプロフェッショナルを紹介する連載『NAGAKU People』を始めました。リペアやリメイクを行う職人はもちろん、様々なプロジェクトに携わる方を紹介します。

今回ご紹介するのは、黒染めによるリウェアを提案しているブランド「KUROZOME REWEAR FROM KYOTO「K」(以下、「K」)」です。同ブランドは、日本の伝統的な正装「黒紋付」に特化した黒染めを手掛ける老舗企業「京都紋付」が展開しています。

これまで、京都紋付が和服の黒染めを専門に取り扱っていたのに対して、「K」では洋服の黒染めをメインにしています。そこで、「K」が生まれた背景や、黒染めの魅力、モノを長く使うことへの考えなどを、京都紋付の5代目 荒川優真さんに伺いました。

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黒紋付専門の老舗企業が、洋服の黒染めを手掛けるまで

——まずはじめに、京都紋付の歴史を教えていただけますか?

荒川さん:京都紋付は僕の曽祖父が1915年に創業しました。もともと、曽祖父が丁稚奉公で黒染めの仕事に携わっていて、そこから独立したのが創業のきっかけです。

着物における染色は分業制で、まず無地と柄で染め屋が分かれています。さらに、無地の中でもさまざまな色を扱う店と、黒のみを専門とする店があり、弊社は後者の黒のみを扱う染め屋なんです。

うちでは、創業以来、黒染め一筋で100年以上やってきました。黒染めは、深みのある色を出すために何度も下染めを繰り返し、色を重ねていく必要があります。そのため、「黒紋付」は非常に手間のかかる高価なものでした。現在は、弊社が独自に開発した技術を使い、究極の黒を完成させています。

——長らく黒紋付専業でやってこられたんですね。そこから、なぜ洋服の黒染めの事業を始めたのでしょうか?

荒川さん:きっかけになったのは、2013年に環境保全団体のWWFジャパンさんが提案する衣服の再活用プロジェクト「PANDA BLACK」に参加したことです。とはいえ、実は弊社ではそれ以前から洋服の黒染めにも個別に対応していました。

着物はもともとサステナブルな服なんです。汚れたら反物の状態に戻して染色し直して着たり、カバンにして使ったり、そういう文化が根付いています。そんな背景から、「着物だけじゃなくて洋服も染めたい」という声がお客様からあがるようになり、持ち込んでいただいた服を黒染めするということをやっていました。

そうした個別の相談がだんだん増えてきて、事業化しようかと考えていた頃、ちょうどWWFさんに声をかけていただいたんです。衣類の大量生産・大量廃棄が森林破壊につながると問題視していて、その課題を解決するための取り組みとして洋服の染め直しのプロジェクト「PANDA BLACK」を立ち上げるとのことでした。なので、弊社としてもすごくいいタイミングだったんです。

——当時のお客様の反応はいかがでしたか?

荒川さん:「服が蘇った」とすごく喜んでいただきましたね。一方で、アパレル会社さんにも「一緒に取り組みたい」とお声がけをしていたのですが、「新しい服が売れなくなる」という懸念からか、反応はイマイチでした。

——その後、「KUROFINE(クロフィネ)」として黒染めの事業を続け、2020年に「K」と名称を変更してリブランディングされました。このリブランディングで、事業はどのように変化しましたか?

荒川さん:名称変更とともに、黒染めの受付システムを刷新しました。アフィリエイトの仕組みを活用し、アパレル企業、クリーニング店、百貨店などのサイトに受付のバナーなどを置いていただき、売上に応じた金額をキャッシュバックする手法を取ったんです。その結果、昨対比で150〜200%ほど売上が伸び、認知度も高まりました。

先方の企業としても、受付バナーをサイトに貼るだけでコストもかからないですし、サステナブルな取り組みをしていると対外的に打ち出せるメリットも感じていただいたようです。そのあたりの反応は、SDGsの浸透もあって、2013年頃とは大きく変わりましたね。

独自技術「深黒加工」で、より際立つ黒さに

——黒染めにおいて、どのようなこだわりをお持ちなんでしょうか??

荒川さん:着物の染めと洋服の染めは工程が異なります。着物は昔ながらの染色方法で染めていますが、洋服は伝統的な技法を使いながらも現代に合わせた方法で染めていますね。それぞれの素材にあった染料を使うようにしており、たとえば、染料に使っている材料は同じでも、洋服の場合は黒一色ではなく、さまざまな色を混ぜて深みのある色をつくっています。

また、弊社では「深黒(しんくろ)加工」という独自の染色技術も開発しました。これは、布に光を吸収させることで目に入る光を減らし、黒さをより一層際立たせる技術です。

ほかにも、弊社のある京都市中京区の壬生(みぶ)一帯は良質な地下水が湧くことで知られており、今でもその地下水を組み上げて染色をしています。染料に関しても安全性の高いものを使用しており、繊維製品に有害な物質が含まれていないことを証明する「エコテックス®︎スタンダード100」の「クラスI」に弊社の製品は認定されています。この「クラスI」は乳幼児が口にしても無害という、非常に厳しい基準をクリアしたものです。

——黒染めで、特に難しい工程はありますか?

荒川さん:「K」のサービスには、素材も状態もさまざまな衣服が送られてくるので、きれいに問題なく染まるのか、一つ一つ検品するのが大変ですね。チェックしているのは主に、素材、状態、付属品の3つです。

素材や状態によっては、きれいに染まらずムラになってしまうことがありますし、襟の中に芯が入っているシャツや、中綿が入っている上着、ボタン付きの服など付属品があるものは染めても問題ないか、取れてしまわないか、などしっかりと確認しています。

——「K」のサービスを利用したお客様の反応はいかがですか?

荒川さん:「もう着れないと思っていた服が、また着れる」と、喜んでいただいています。外部のサイト経由で申し込まれるお客様も多いのですが、弊社に直接感想をいただくことが多くて、それだけ満足いただけてるのかなとうれしく思っています。

黒染めは、服に新たな価値を生み出す

——荒川さんにとっての、黒染めの魅力を教えてください。

荒川さん:その服に新しい価値を生み出せるところです。黒染めは単なる染め直しではなく、汚れてしまった服に新たに命を吹き込めるのが魅力だと思います。さらに、それが環境保全に繋がるというのもうれしいですよね。

——「K」の今後の展望を教えていただけますか?

荒川さん:黒染めを常識にしていきたいですね。今は、汚れたらクリーニングに出して、それでも取れなかったら捨ててしまうことが多いと思いますが、そこで黒染めという選択肢が浮かんでほしいなと。そのためにも、黒染めの認知度を上げていかなくてはと思っています。

また、日本だけでなく、海外向けにも黒染めのサービスを展開していきたいと考えています。最近は、海外のメディアに載ったり、海外のお客様から問い合わせが来たりすることもあるんです。環境保全になることはもちろん、伝統技術を使っている点も強みだと思うので、積極的に発信していきたいですね。

——最後に、モノを長く使うことについて、荒川さんはどのように考えていらっしゃいますか?

荒川さん:モノを長く使うことは、節約や環境にいいだけじゃなく、モノに込められた思いやつくられたときのストーリーを尊重することでもあると思います。

ご自身のクローゼットを見つめ直してみると、汚れてしまった服や、最近はあまり着ていない服などがあると思います。黒染めは、そうした服に新たな価値を生み出せる技術です。「K」の黒染めが、服をより長く使うことの手助けになれたらうれしいですね。

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執筆:溝上 夕貴
撮影:小黒 恵太朗
編集:とみこ


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