NAGAKU People vol.3 : 『手入れして何十年と履き続けられる。そんな革靴の魅力を広めたい』shoes studio tomo.ni(靴工房ともに) 中口智仁
モノが長く使われる社会の実現を目指すナガク株式会社が運営するウェブマガジン「NAGAKU Magazine」では、その文化を体現するプロフェッショナルを紹介する『NAGAKU People』を連載しています。この連載ではリペアやリメイクを行う職人はもちろん、様々なプロジェクトに携わる方を紹介します。
今回ご紹介するのは、大阪府松原市で「shoes studio tomo.ni」(靴工房ともに)を運営している、靴職人の中口智仁さんです。「靴工房ともに」の名前の由来は、「お客様の人生のおともになる靴を提供したい」との思いから。そんな思いを実現すべく、中口さんは靴の修理やお客様にあったオーダー靴の製作など、靴に関する依頼を幅広く受けています。
靴の販売員からキャリアをスタートした中口さん。靴職人への道のりや、モノを長く使うことに対しての考えなど、お話を伺いました。
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既成靴の限界を感じ、靴職人の道へ

——まずはじめに、中口さんが靴職人になるまでの経緯を教えてください。
中口さん:靴に興味を持ったのは、姉が靴をたくさん持っていて、日常的に目にしていたことがきっかけだと思います。就職の際は、元々モノをつくることに憧れがあったのもあり、靴以外にも“つくる”ことに関われる企業をいくつか受けていて、最終的に靴の小売店に入社しました。
販売員として働くなかで気付いたのが、合う靴がなくて困っているお客さんがたくさんいること。「今履いているものと同じ靴が欲しい」というお客さんもいましたが、その靴が廃盤になっていたら買い替えを勧めることしかできず、モヤモヤとした思いを抱えていました。
だんだんと既成の靴の限界を感じるようになり、「それなら自分で作れるようになろう」と思い立って、靴づくりの学校に通い始めました。販売員として働きつつ、仕事が休みの日に週2回ほど通っていて、人間の足の構造から実際に靴をつくるところまで幅広く学びました。

靴がつくれるようになると、今度は「靴をつくる以上、修理もできなければ」という思いが強くなり、靴修理店に転職。販売員時代に会った「お気に入りの靴を履き続けたい」というお客さんにもアプローチしたいという思いもありました。

その後、2018年に「shoes studio tomo.ni」(靴工房ともに)を立ち上げました。30歳までには自分の店を持ちたいという思いがあってのオープンでしたが、当時は実家の倉庫を改装しひっそりとやっていた程度。靴修理店で働きつつだったので、「shoes studio tomo.ni」としてはもっぱら紹介で修理を請け負っていましたね。
そして2023年に靴修理店を退職し、現在の松原市に店舗兼工房をオープンしました。

——靴職人として独立するまでで、印象的だった出来事はありますか?
中口さん:2019年に、シューズクリエイターCALFの一員として「金沢21世紀美術館」の展覧会に出展したのはいい経験になりましたね。通っていた学校の先生の紹介で出させていただき、「モダン」「クラシック」のテーマでそれぞれ1足ずつ出展しました。
「クラシック」の方はシンプルな内羽根の革靴を、「モダン」の方は左右で白黒の色の出方が逆になっていて、内羽根・外羽根が混在している特徴的な靴を作りました。製作過程ではかなり悩みながら作りましたが、実際に出展してお客さんから反応があるとうれしかったですね。


「思ってたのと違う」を避けるためにも、お客さんとの会話を大切に
——「shoes studio tomo.ni」では靴の修理のほか、オーダー靴の製作もされていますが、それぞれ割合はどの程度でしょうか?
中口さん:靴の修理が約9割で、オーダー靴は約1割ですね。
修理で多いのは、かかとのゴムの交換。紳士靴を例に工程を説明すると、まずリフト(ヒールの地面に接している部分)とボンドを剥がし、新しいゴムを付けて靴の形に合わせて削り、最後に色をつけて完成です。紳士靴はもちろん、パンプスの依頼も多いですね。
ほかにも、サイズ調整の依頼もたまにあります。ネットショッピングで買う人が多くなったためか、「思っていたより小さかった・大きかった」と相談に来られますね。とはいえ、サイズ調整はストレッチャーで伸ばすか、中敷などで調整するかが主な手段になるので、限度はあります。


——修理を行う際、難しい点はどこでしょうか?
中口さん:少し大きな修理を行う場合は、お客さんと完成イメージを共有するのが難しいですね。
たとえば、ソール(靴底)をすべて交換する場合、元々のソールと本体との接着部分が交換後に露出してしまうことがあります。露出した部分には本体と同じ色を塗って目立たないようにしますが、それでも靴の印象は大きく変わってしまうんです。
このように、修理の内容によっては意匠が大きく変化してしまうケースもあるので、「思ってたのと違う」を避けるためにも、事前にお客さんとしっかり話すことを心がけています。
——靴の修理をしていて、喜びを感じるのはどんなときでしょうか?
中口さん:「靴がまた履けるようになった」と喜んでいただけるのがうれしいですね。あとは、一度来ていただいたお客さんが今度はまた別の靴を持ってきたり、他の人に紹介してくれたりすることも多くて、本当にありがたいなと思います。
みなさん、お気に入りの靴を持ってきてくださるので、少しでもその靴の寿命を延ばして、靴と長く過ごせる未来を提案できたらと思っています。

モノにも人にも、愛情を
——「shoes studio tomo.ni」の今後の展望について、教えていただけますか?
中口さん:まだまだ松原市内でも知らない方が多いと思うので、マルシェやワークショップなどにも積極的に参加して認知を広げていきたいですね。あとは、お客さん自身が靴を修理できる場を作りたいなと漠然と考えています。僕の持っている道具を貸し出すなどしてお客さん自身が修理を体験したら、よりその靴に愛着がわくんじゃないかなと。

それから、「shoes studio tomo.ni」では革靴にこだわっていて、オーダー靴は基本的に革で製作をしています。最近は革靴を履く人がどんどん減っていますが、革は使い込むことで、自分らしく変化していくのが一番の魅力。自分の足に馴染んできますし、色の変化も楽しめます。また、しっかりと手入れしていれば、何十年と使い続けることもできるんです。そんな革靴の魅力を広めて、履く人を増やしていきたいですね。

——ありがとうございます。最後に、モノを長く使うことに対して中口さんの考えを教えてください。
中口さん:日本語には“もったいない”という言葉があるように、きっと昔の人はモノを長く使うことが当たり前だったはず。でも、現代はなんでも安く、すぐ手に入りますし、修理する方が高くつくことも多い。「長く使おう」という気持ちが薄れてきていると感じます。
モノを長く使うことは、モノに対して愛情を持って大切に扱うこと。それは、人に対しても同じなんじゃないかと僕は思っています。モノを長く使おうという気持ちを持てば、きっと人にも優しくあれるんじゃないかと。僕自身も、そういった人でありたいなと思っています。

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