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新時代のアップサイクルベンチ。能登の震災を乗り越え、よみがえる九谷焼

石川県の伝統工芸である九谷焼が、意外な形でアップサイクルされた。2024年11月、製造の過程で規格外となり、これまで廃棄されてきた陶磁器片を活用したテラゾーベンチが完成し、玉川髙島屋S•C本館2Fのシーティングスペースに設置された。公開は12月に行われた。

このプロジェクトを手掛けたのは、石川県能美市を拠点とする株式会社CACL。有限会社永山祐子建築設計や関ヶ原石材株式会社と協力し、陶磁器片をテラゾーの骨材として活用する新たな取り組みとして注目を集めている。

製造工程で約1割が廃棄される九谷焼。その中でも、絵付け前の白素地に釉薬を施した「白磁」は、小さな黒点や傷一つで商品価値を失い、従来は細かく砕かれ廃棄されてきた。しかし、同社はこの廃棄される陶磁器片に新たな価値を見出し、回収(買い取り)を開始。令和6年能登半島地震による被災品の回収も加わり、その取り組みは新たな段階へと進化している。

震災から1年が経過しようとする今もなお、回収された大量の陶磁器片が手元に残り、さらに規格外製品が今後も発生することが予想される。陶磁器片を一過性のものとして捉えるのではなく、普遍的に市場に流通する仕組みを模索し続けている。

同社は、震災後、回収した陶磁器片を金継ぎや輪島塗の技法を用いて再生し、異なる工芸品同士を融合させる作品制作を展開。こうした試みは国内外で注目され、金沢21世紀美術館でも現在展示が行われている。

建築家・永山祐子氏との出会いは、このプロジェクトに決定的な転機をもたらした。当初、大理石の端材を主材料として計画されていたが、九谷焼の陶磁器片を組み込むというアイデアが生まれた。その結果、異質な素材が融合することで独特の風合いを持つテラゾーベンチが完成した。

特筆すべきは、このプロジェクトが単なる建材開発にとどまらない広がりを見せている点である。陶磁器片の研磨作業は、障害のある方々の就労機会として活用されている。短時間労働や特性に応じた働き方を可能にすることで、地域の担い手不足解消にも貢献している。

玉川髙島屋S・C本館2Fに設置されたテラゾーベンチには、さまざまな色彩の大理石端材と九谷焼の陶片が散りばめられている。来場者は、元の器の形をわずかに残す陶片を探しながら、ゆったりとした時を過ごすことができる。二子玉川の自然をモチーフにした空間デザインと相まって、新しい価値の創造を実感できる場となっている。

このプロジェクトは、廃材とされていた素材に新たな命を吹き込み、デザイン性と機能性を兼ね備えた建材として再生させることに成功した。さらに、障害者雇用の創出という社会的価値も生み出している。 伝統工芸の未来に、新たな可能性の扉を開いた意義深い取り組みとして、今後の展開が注目される。

株式会社CACL


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