
2025年6月に、富山市で開催された「富山アートディレクターズクラブ2025」デザイン審査会において、株式会社ROLEが手がけた「タリーズコーヒーおとぎの森公園店」のインテリアデザインが準グランプリを受賞した。同店舗では、通常であれば廃棄されてしまう端材を活用し、富山県高岡市の伝統工芸技術と組み合わせることで、美しく機能的なインテリアアイテムを数多く生み出している。

受賞の背景には、単なるリサイクルを超えたアップサイクルの発想がある。レーザー加工で生じたアルミ・真鍮・銅板の端材を、パズルのように組み合わせてアートフレームに仕上げる取り組みや、異なる金属を型に流し込む「ふきわけ鋳造」技術を用いたペンダントライトなど、廃材に新たな価値と美しさを与える手法が審査員から高く評価された。


このプロジェクトで特に注目されるのは、高岡市の若手職人たちとの緊密なコラボレーションである。金属の腐食や変色を自在に操る伝統着色技術を持つ「モメンタムファクトリー・Orii」は、従来ブロンズ像や花瓶に用いられてきた技術を建築分野やファッション業界にも展開する革新的な職人集団だ。同社が手がけた着色技術により、端材のアートフレームは単なる再利用品から芸術作品へと昇華している。

また、「般若鋳造所」が得意とする「ふきわけ鋳造」技術では、異なる金属が型の中で混ざり合うことで、まるでミルクのような美しい表情を持つカップライトが誕生した。この技法は完全にコントロール不可能な偶然性を楽しむ製法であり、同じものは二つとして存在しない唯一無二の作品となっている。

店内のインテリアは、視覚的な美しさだけでなく、実際に手で触れることで変化していく体験も提供している。お手洗いのドアハンドルは、あえて磨きをかけずに鋳造時の表情を残した「鋳肌」の質感を活かしており、使用するたびに経年変化を楽しむことができる。


壁面を飾るマグネットも、鏡面仕上げやサンドブラストなど異なる仕上げが施されており、それぞれ異なる手触りと経年変化を見せる。これらのアイテムは、使用者との関わりの中で表情を変えていく「育てるインテリア」として設計されている。


新高岡駅からも近いこの店舗は、地元住民だけでなく県外から訪れる観光客にとっても、高岡の伝統工芸技術に触れる貴重な機会を提供している。400年にわたって受け継がれてきた技術の深さと表現の幅広さを、日常的な空間で体感できることの意義は大きい。


デザインを監修した株式会社ROLE代表の羽田純氏は、ヤレ紙と呼ばれる印刷廃材を名刺や封筒へと再生するプロジェクトなど、継続的に循環型デザインに取り組んできた実績を持つ。今回のプロジェクトも、その延長線上にある社会課題をクリエイティブで解決する取り組みの一環である。
このプロジェクトが示すのは、環境負荷の軽減と美的価値の向上が両立可能であるという事実だ。廃材を単に再利用するのではなく、伝統工芸の技術と組み合わせることで、元の素材を超えた価値を生み出している。

現代社会では、モノを長く使い続けることの重要性がますます認識されているが、このタリーズ店舗は「修理して使い続ける」だけでなく「廃材を美しく生まれ変わらせる」という新しいアプローチを提示している。職人の手による丁寧な仕事は、大量生産品にはない温かみと個性を持ち、使用者との長い関係性を築いていく。
▼店舗情報
店舗名:「タリーズコーヒー 高岡おとぎの森公園店」
所在地:富山県高岡市佐野1365-1
席数:69席(テラス18席を含む) ※全席禁煙
営業時間:全日8:00 – 20:00