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NAGAKU People vol.5 : 『眠っていたジュエリーに新たな輝きを。未来へ受け継ぐリフォームという選択肢』ジュエリームナカタ 棟方敬太

モノが長く使われる社会の実現を目指すナガク株式会社が運営するウェブマガジン「NAGAKU Magazine」では、その文化を体現するプロフェッショナルを紹介する『NAGAKU People』を連載しています。この連載では、リペアやリメイクを行う職人はもちろん、様々なプロジェクトに携わる方を紹介します。

今回ご紹介するのは、「ジュエリームナカタ」の棟方敬太さんです。1964年に埼玉県で創業したジュエリームナカタは、創業当初からオーダーメイドの一点物ジュエリーを作り続けてきました。

棟方さんによると、ここ数年はジュエリーのリフォームの依頼が増えているそう。使われずに眠っていたジュエリーが、職人の手によって新たに生まれ変わり、再び誰かの日常を輝かせる。その瞬間こそがリフォームの魅力だと語ります。60年の歴史を紡いできた同店の背景や職人たちのストーリーとともに、心を豊かにするジュエリーとの付き合い方についてお話を伺いました。

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金属の素材を削る、叩く、曲げる。手仕事から生まれるあたたかさを大切に

――まずはじめに、ジュエリームナカタのこれまでの変遷を教えてください。

棟方さん:ジュエリームナカタは、埼玉県に拠点を置くオーダーメイドのジュエリー工房です。また、ジュエリーを長く大切にお使いいただくため、リペア・リフォームのサービスも行っています。コーポレートスローガン「brilliant days,brilliant future」には、ジュエリーの輝きによって、お客様の毎日がひときわ明るくなるように、という願いが込められています。

1964年に父が創業し、私は幼い頃から工房で仕事をする父を見て育ちました。親や周りから「継げ」と言われたことはありませんでしたが、高校を卒業する頃には自然と「自分もこの仕事に就く」と決めていましたね。高校卒業後は、大学に通いながら実家とは別の工房で修行させてもらい、大学を卒業した後は、まずその工房に就職しました。

――ジュエリー職人の修業というのは、具体的にどんなことをされるのでしょうか。

棟方さん:金属の素材を削る、叩く、曲げるといった地道な技術を一つひとつ学んでいきます。今でこそ様々なテクノロジーが発展していますが、私の父が修行を始めた時代は、どれだけ複雑な細工でも、小さくて細かいパーツの型を一つずつ溶接して形にしていました。手作業の比重が大きく、それだけ基本的な技術が求められましたね。

今は便利な技術がある一方で、そういう基礎的な技術を身につけた職人は少なくなっているように感じます。それでも、ジュエリーに込める思いや、手仕事から生まれるあたたかさは変わらず大切にしていきたいですね。

「今あるものを長く大事にしたい」という意識を持つ方が増えている

――家業に入られてからはどんな変化がありましたか?

棟方さん:僕が就職した年はバブルがはじけた頃で、景気は悪くなる一方でした。「それでもやるんだ」と父の反対を押し切って修行を始めたわけですが、家に帰ってきてからもその状況は変わっていなくて。当時はメーカーの下請けをしてなんとか事業を続けていましたが、その仕事自体も数が減り、報酬は下げられる一方でした。

そこで、「このままでは先細りになるなら、自分たちで何か挑戦してみよう」と父と二人で話し合い、方針を転換することにしました。僕たちが胸を張れるのは、職人として自分たちの手でジュエリーを作れること。そこで、お客様一人ひとりの思いに寄り添うような仕事をしようとオーダーメイドに注力する道を選びました。店舗を構え、自分たちでウェブサイトを作って地道にアピールしていく中で、少しずつお客様が増えてきて今に至ります。

――創業当初からリフォームのサービスも展開されているとのことですが、近年お客様の意識は「新しく買う」ことから「物を長く大事に使う」ことにシフトしてきていると感じますか?

棟方さん:ここ十年で貴金属の価格が高騰していることもあり、「今あるものを長く大事にしたい」という意識を持つ方が増えている気がします。特に、家族から譲り受けたジュエリーを新しいデザインにリフォームするという依頼がかなり増えました。また、新しくジュエリーを作る方でも、三世代先まで受け継ぐことを前提に検討される方も多いですね。

――リフォームをする際に、特にこだわっている点や工夫している点があれば教えてください。

棟方さん:まずリフォームの場合は、既にある石や素材を使う前提なので、それを活かしてどんなデザインができるかを考えるところから始めます。その上で私たちは、お客様のジュエリーとの思い出を第一に考えています。

たとえばご家族の形見の場合、ただ新しく生まれ変わらせればいいというわけではありません。まず最初の打ち合わせの時点で、どんな思い出があるのか、どういう風に感じられているのかを伺った上で、お客様のイメージに最大限応えるデザインを提案します。

眠っていたジュエリーが、リフォームによって再び輝きを放つ

――中でも特徴的だった事例や、思い入れのある事例はありますか?

棟方さん:もう本当にたくさんあるのですが……。初めてのリフォームで喜んでただけたところから、次へ次へと繋がっていった特徴的な事例が一つあります。

まずは、お母様の形見のパールネックレスを、家族でいくつかのアイテムに分けたいとご相談いただいたため、姉妹でシンプルなピアスとネックレスをそれぞれ作らせていただいたんです。

それを見た叔母さまが「自分もなにか作りたい」とご相談にいらして、イヤリングを作らせていただきました。実は、さらにまた同じご家族の方からご依頼をいただいて、新しいデザインのペンダントを作っているところなんです。

――一つのネックレスがいくつものアイテムに生まれ変わったのですね。リフォームをすることで、日常生活にどんな変化が出ると思いますか?

棟方さん:リフォームの魅力は、そのままにしておいたら身に着けられないものが、素材はそのままで新しく生まれ変わることだと思います。つける機会がなかったものが、また身に着けられる。そうすることで気分が明るくなったと。

ご依頼をされた時点で、「身に着けたい」という前提はあるわけですが、特別な時に限らず普段から身に着けるようになった、という方も多いのも印象的です。私たちとしても、使う上で気になる点や支障がないように意識して作らせていただいているので、「日常生活で使いたい」というご要望がなくても、自然と日常使いするようになる、というイメージです。「ずっと身に着けていられる」と喜んでいただけると、私たちとしてもとてもうれしいです。

ジュエリーをきっかけに長い関係性を築く

――ジュエリーを長く使い続けるための心がけがあれば教えてください。

棟方さん:まず、あまり神経質にならずにジュエリーを身に着けていただきたいですね。お渡し直後となると、「傷がついたらどうしよう」と心配そうな反応をされるお客様もいらっしゃいます。でも、そういうストレスを感じてしまうと、身に着けたときの気分も下がってしまいますよね。

大前提として、ジュエリーの素材自体が劣化するということは基本的には起こりえないんです。日常使いをしていると、どうしても表面が黒く酸化することはあります。ですが、それはあくまで表面だけの反応ですから、その場合は私共のような職人にメンテナンスをお任せください。
作り手にお任せいただければ、また元の輝きを取り戻すことができますし、可能であれば、数年に一度はお店で状態を見ていただくことをおすすめします。

――病院の定期健診のようなイメージでしょうか。

棟方さん:まさしくその通りです。例えば、石付きのジュエリーであれば、どれだけ丁寧に扱っていても、石が留まっている部分がどんどんすり減ってしまい、突然石が外れてしまうことがあります。その際に、外れてから持ち込まれるお客様が多いのですが、石が外れるまでには長い過程があるわけです。

代わりの石を取り付けたり、違う形に作り直すことはできます。でも、やはり大切なものであればあるほど、オリジナルのものであることがお客様にとって一番大事だと思います。定期的にメンテナンスをしていただくことで、輝きをを保つことが出来ますし、そうしたトラブルも未然に防ぐことができるので、お気軽にご相談いただきたいです。

――ありがとうございます。最後に、今後挑戦してみたいことはありますか?

棟方さん:ジュエリーは日用品ではないので、例えば結婚指輪であれば通常は人生に一度作って終わりです。ですが、自分たちとしては、何かの縁で繋がってくださった方々と、その後もライフステージの変化に応じて関係が続くような間柄を築いていきたいと思っています。一つのジュエリーをきっかけに、お客様とのつながりが広がり、続いていけばうれしいですね。

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執筆:風音
撮影:横尾 涼
編集:とみこ
写真提供:ジュエリームナカタ


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