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NAGAKU People vol.1 : 『モノはいつか壊れる。また直せるようにするのも、家具修理の仕事』plus den furniture. 小野敬太

モノが長く使われる社会の実現を目指すナガク株式会社が運営するウェブマガジン「NAGAKU Magazine」では、その文化を体現するプロフェッショナルを紹介する連載『NAGAKU People』を始めました。リペアやリメイクを行う職人はもちろん、様々なプロジェクトに携わる方を紹介します。

今回ご紹介するのは、北海道札幌市でオーダー家具の制作や、家具のリペア(修理)・リメイクを行う「plus den furniture.(プラス デン ファニチャー)」の小野敬太さんです。「+den(プラスデン)」とは、住宅用語で「趣味を楽しむための部屋」という意味。その名の通り、小野さんが手掛ける家具は、個性が光る意匠のほか、シンプルな中にも遊び心を感じられるものが数多くあります。

小野さんによると、近年では、当初から依頼の多いオーダー家具の制作に加え、リペア(修理)やリメイクの依頼が多くなってきたそうです。そこで、どのような思いでそれらに取り組んでいるのか、またモノを長く使い続けるための心がけについてお話を伺いました。

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「やりたいことが見つからない」から家具製作の道へ

——小野さんは大学卒業後に家具製作の道へと進まれたそうですが、なぜその道を選ばれたのでしょうか?

小野さん:もともと大学ではまったく違うことを学んでいました。卒業が近づき、同期が続々と就職先を見つけていく中で、自分だけやりたいことが見つからず……。漠然と、“何か形になるものを作りたい”という思いがあったので、身近にあった家具をつくることに興味を持ちました。家具はゼロから完成までの工程を1人でできることも魅力に感じましたね。

大学卒業後、職業訓練校で家具製作の基礎を学びました。カンナやノコギリを使ったのは小学生の図工の授業以来だったので、すごく新鮮でしたね。まったくの初心者でしたが、学んでいく中で「自分もやればできるようになるかも」と思えました。その後、いくつかの会社を経て、「plus den furniture.」をオープンしました。

——これまで働いてきたなかで、印象的だった職場はありますか?

小野さん:1つは職業訓練校を出て就職した岐阜県高山市にある家具メーカーです。ここでは、最初は先輩の手伝いなど、簡単な作業からスタートしました。職業訓練校で学んでいたとはいえ、家具製作は知れば知るほど奥が深くて。この会社で本当の意味で、家具製作を一から学びました。

もう1つは、30歳のときに上京してきて最初に働いた東京のアンティークショップ。ここでは、家具のリメイクや修理を学びました。このお店ではヨーロッパの家具なども扱っていたのですが、修理のために塗装を剥がすと、また塗装が出てきて…といったことがよくあって。しかも、プロではなく素人による塗装で、おそらく使っている人自身が塗っていると思われるものもたくさんありました。

日本では、ある程度使ったら捨ててしまうことが多いですが、ヨーロッパでは、こうして家具を修理して、何世代にもわたって使う文化がある。それがすごく素敵だなと思いましたね。

——「plus den furniture.」をオープンしたきっかけは何だったのでしょうか?

小野さん:東京から地元である札幌に戻ってきて、一度は家具製作会社に就職したのですが、組織の中では自分の持つ技術を発揮できないもどかしさを感じていて…。もともと個性のあるものや面白いものが好きなので、自分が思い描く家具を作りたいと考えて「plus den furniture.」をオープンしました。

近年、リメイクと修理の依頼がかなり増えている

——「plus den furniture.」では、どのような依頼を受けていらっしゃるのでしょうか。

小野さん:オーダー家具の制作と、家具のリメイクや修理を行っています。最近は、オーダー家具3割、リメイク3割、修理4割くらいの割合ですね。お店をオープンした2016年からしばらくはオーダー家具の依頼が多かったのですが、コロナ禍を境にリメイクと修理の依頼がかなり増えました。ちょうどその頃からSDGsの認知も広まって、「まだ使えるのに捨てるのはもったいない」と考える人が増えたのかもしれません。

——今まで制作した中で、特に印象に残っているものはありますか?

小野さん:お客さんのご実家に使われていた欄間と引き戸で、仏壇を作ったことです。その方はご実家をたたまれるとのことで、「家がなくなっても実家での思い出を感じたい」と、依頼してくださいました。

仏壇としてはかなり大きめのものを作りましたが、使用した欄間と引き戸もかなりしっかりしたものだったので、それぞれサイズダウンして製作しました。また、アパートにお住まいで引越しも見据えているとのことだったので、組み立て式にしたのも工夫したポイントです。

完成品をお客さんの家に運び込んだとき、「実家がよみがえった」とすごく喜んでいただいたのがうれしかったですね。

ほかには、2人姉弟のお客さんから「母の形見の桐タンスを2人で分けたい」と相談された依頼が印象的でした。悩みましたが、タンスを真ん中で縦に切り、金属製の脚を追加。チェストにリメイクして、2つを合わせると元の形が分かるように設計しました。

完成したチェストをお渡しする日、亡くなったお母様の写真を持ってきて、見せてあげていたのが印象に残っています。

——今回挙げていただいたもののように、ご実家で使っていたものや、ご両親が使っていたものをリメイクされる方は多いのでしょうか?

小野さん:多いですね。特に最近は家じまいする際に、「ご家族が使っていたものを一部でも残したい」という相談がよくあります。

——お客様からの依頼ではなく、小野さん自身が中古の家具を引き取って、リメイクされることもありますか?

小野さん:そういう場合もあります。小道具屋さんで材料を買ったり、お客さんのいらない家具を引き取ったりして、製作しています。

自分が発案したもので印象に残っているのは、店をオープンしてすぐの頃、僕の祖母が使っていたタンスをサイドボードにリメイクしたことですね。個性的な塗装をしたり、側板(家具の側面の板のこと)を変えたりと、自分のやりたいように作ったんです。特に売る気はなかったんですが、イベントに出店したときに、展示台として使っていたらお客さんが気に入ってくれて、購入いただいて。自分の家具製作に自信を持てた瞬間でした。

セオリーと違っても、その家具にとってベストな修理を

——修理やリメイクならではの工夫や技術があれば教えていただけますか。

小野さん:家具によって何もかも違うので、臨機応変に考えることが大事ですね。普通ならこういう直し方はしないけど、構造や強度を考えるとセオリーを気にしすぎずに直した方がいいかもしれないな、とか。

たとえば、次にまた壊れたときのことを考えて、強力な接着剤をあえて使わない場合があります。絶対に壊れないものはないと思っているので、また次も直せるように修理することを常に心がけていますね。

——今後はどんなことに取り組みたいと考えていますか?

小野さん:リメイクや修理をやっていると、どうしても再利用できないものも出てきます。明らかにボロボロの家具とか、強度的に使えそうにない木材とか。そういうものも、なんとかして再利用できたらいいなと考えています。

たとえば、家具を支える部分に使えないなら、飾りとして再利用するのもいいと思っていて。これまでの製作物だと、このサイドボードは「曲木」が使われていた椅子のパーツを飾りとして活用したもの。こんなふうに、なるべく捨てずに活用する方法を模索しています。

ちょっとスピリチュアルな話になるんですけど……ものには魂が宿っていると思うんですよね。たとえば、「これくらいの長さの板がほしいな」と思ったとき、取っておいた古い板の中にぴったりのものがあった、なんてことがよくあって。そういう場面に何度も遭遇していると、「ものが蘇りたいと思っているのかな?」と思えてくるんです。だからこそ、どんなにボロボロのパーツであっても、できるだけ再利用したいと考えています。

——最後に、モノを長く使うために大切なことを教えてください。

小野さん:モノを大事にしすぎないことですかね。お気に入りの家具だからこそ気を遣う人も多いと思うんですけど、それよりも日常的に使って、傷がついたらメンテナンスする。そうやって暮らしの中で手をかけながらモノを使い続けることが、結果的に長く使うことにつながるんじゃないかなと思います。

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執筆:溝上 夕貴
撮影:工藤 圭右
編集:とみこ


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