ロケット燃料タンクから生まれたスピーカー「DEBRIS」。宇宙素材の再活用に挑むアップサイクルプロジェクト
宇宙開発用に製造されながらも使われることのなかった燃料タンクが、スピーカーとして生まれ変わった。「DEBRIS(デブリ)」は、ロケット開発資材をアップサイクルした音響機器であり、360度に音が広がる構造と、彫刻のような造形が特徴だ。宇宙資源を新たな価値に変える取り組みのなかで誕生した、唯一無二のプロダクトである。
このスピーカーは、ロケットの廃材を再活用するプロジェクト「&SPACE PROJECT」の一環として制作されたもの。企画からデザイン、設計、制作を担ったのは、乃村工藝社グループが推進するR&Dプロジェクト「noon by material record」だ。さらに今回は音楽体験を通じて素材の新たな魅力を伝えることにも挑戦。世界的に活躍するトラックメーカーGONNO氏を迎え、宇宙産業が盛んな北海道・大樹町で風や波の音をフィールドレコーディングし、その土地の空気感を映し出す楽曲を制作した。

「&SPACE PROJECT」は、宇宙産業の集積地である北海道を舞台に、地元企業や国内外のクリエイターと連携しながら「人々の暮らしに宇宙を」というコンセプトのもと活動している。これまでに、大阪・関西万博でも展示中の「宇宙タンクベンチ」や「宇宙シェルフ」などを発表し、宇宙ビジネスの裾野を広げながら、新たな産業創出を目指してきた。

今回タッグを組んだ「noon by material record」は、建築・内装業界における大量消費の課題に向き合い、素材を起点としたサステナブルな研究開発を行っているチームだ。建築廃材や食品残渣、自然素材などを使い、音響体験を通して素材の新たな価値を提案してきた。両者は「廃材は終わりではなく、新たな可能性のはじまり」という共通の思想のもと、「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」を着想源にこのスピーカーを開発した。

「DEBRIS」の筐体には、北海道大樹町でロケットの試験用に製造されたアルミ製燃料タンクの部材が使われている。軽量かつ高耐久で宇宙空間を前提に開発されたこの素材を、再設計によって音響機器として生かした。

360度に音が広がる無指向性構造も特徴のひとつ。3本の脚で支えられたジュラルミン製タンクの上には、浮遊感のある樹脂アンテナと金属オブジェが配置され、無重力空間で物体がたゆたう様子を思わせる。
さらに、上部に据えられた球体の金属オブジェは、鉄・銅・アルミといった元素を一度溶かし、有機的な形に再構築したもの。惑星や鉱物を思わせるその存在は、素材の“記憶”を宿しながら、鑑賞対象としての美しさも備えている。一つひとつ微妙に異なる造形からは、工業製品にはない一点物のような趣が感じられる。
この構造とデザインは、「宇宙には上下左右という概念が存在しない」という考えから生まれており、空間のあらゆる方向に広がる音体験を通じて、宇宙空間の特性を体現するものだ。素材・空間・音が交差するこの装置は、単なるスピーカーを超えた、新しい体験のプラットフォームとしての可能性を示している。

「DEBRIS」は、未使用の宇宙資材に新たな命を吹き込み、プロダクトとしての新たな可能性を提示する試みだ。素材の背景や性質を理解し、そこに設計と表現を重ねることで、ただの廃材では終わらない“体験価値”が生み出されている。
DEBRIS | ROCKET TANK SPEAKER
& SPACE PROJECT │ 宇宙ロケットアップサイクルプロジェクト
株式会社乃村工藝社 / NOMURA Co.,Ltd.
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