割れた陶磁器に、もう一度光を。石川発のブランド「KAKERA」が拓くサステナブルな創造
破損した陶磁器や規格外とされた工芸品に、新たな命を吹き込む—。石川県能美市を拠点とする株式会社CACLが、2025年7月3日(木)、陶磁器片などの廃材を用いた実験的プロダクトブランド「KAKERA(カケラ)」を正式にローンチした。これは、伝統工芸の継承とアップサイクル、さらにはインクルーシブなものづくりを掛け合わせ、地域と社会を結び直す挑戦だ。

「KAKERA」は、九谷焼の陶磁器片を中心とした廃材を素材に、アートピースやプロダクト、マテリアルとして再編集するブランドだ。誰かにとって不要とされた“かけら”を、「何かを生み出すためのピース」として捉え直し、偶発的な造形美に光をあてる。それは同時に、従来の価値基準では見過ごされてきたものへの再評価でもある。
この活動の背景には、CACLが長年にわたって取り組んできた地域課題がある。同社は、能美市に根づく九谷焼文化の後継者不足、そして障がい者の就労機会の狭さという2つの社会的課題を、工芸とデザインの力で結び直すことを目指してきた。


2024年に発生した能登半島地震以降は、輪島塗の職人たちと協働し、被災した地域の伝統技術を活かした仮設工房づくりや仕事創出にも注力。「Stand with NOTO」プロジェクトとして、地震で破損した陶磁器片を再利用した作品を制作し、金沢21世紀美術館の企画展にも出展するなど、活動は広がりを見せている。



ブランド名の「KAKERA」は、その名の通り、世に取り残された“かけら”を象徴している。ロゴもまた、地域の人々が陶磁器片を自由に組み合わせて「K」の形をつくったものであり、偶然性や多様性を受け入れるブランド哲学が込められている。あえて統一せず、今後もプロダクトごとに異なるロゴを採用していくという流動的な姿勢も特徴的だ。

これまでにも「KAKERA」は、名前のないかたちで活動を積み重ねてきた。金沢21世紀美術館のミュージアムショップでは、陶磁器片を使った箸置き「HASHI STAND」が販売され、高い人気を集めた。さらに、建築家・永山祐子と協業した玉川高島屋S・Cのテラゾーベンチや、Arflex Japanのチャリティーフリマでのプレート制作など、日常に寄り添うプロダクトとして、着実に実績を築いている。


今後、「KAKERA」は陶磁器片に限らず、さまざまな素材を対象に活動の幅を広げる予定だ。目指すのは、廃材に宿る無作為の美しさを見出し、それを人の手によって活かす“実験”の連続である。「KAKERA」のプロダクトは、あらかじめ用意された枠にはまるのではなく、むしろその外側にあるものから生まれる。予定調和にとらわれないからこそ、新しい価値が立ち現れる。

モノのかけらを、ただの破片として捨ててしまうのではなく、そこに物語を見出し、新たな意味を与えること。それは、モノを長く使い、次世代へと受け継いでいく思想にも通じている。「KAKERA」の活動は、アップサイクルを超え、使い捨ての社会への静かな問いかけでもある。