
2025年、土屋鞄製造所が創業60周年を迎えた。
1965年に東京・足立区で始まったランドセルづくり。その原点に流れていたのは、「時を超えて愛される価値をつくる」という想いだった。それから60年。素材や形は変われど、誰かの日々を支える道具をつくるという精神は、今もなお、TSUCHIYA KABANのものづくりの根底にある。
この節目の象徴的なモチーフとして全体に用いられたのが、“矢印のドローイング”だ。創業者・土屋國男の姿勢「Masterfully handcrafted(品格あるものづくり)」のタイポグラフィとともに、軽やかに未来を指し示す手描きの矢印が、商品やノベルティ、店頭ビジュアルにあしらわれている。

中でも注目を集めているのが、記念モデルとして発売された限定シリーズ「Solid」。長年向き合ってきた革ではなく、新たにナイロンという素材を選び、そこに革製品と同等の技術と美意識を詰め込んだ挑戦作だ。

素材には、イタリア・LIMONTA(リモンタ)社製の高密度ナイロンを採用。構築的なフレーム構造によって、柔らかなナイロン素材の鞄を自立させている。その姿は、素材が変わっても変わらない「TSUCHIYA KABANらしさ」を体現している。


さらに、「直してまた使う」ことを前提に、分解修理のしやすい構造を採用。革鞄と同様に、長く使い続けるための設計思想が息づいており、TSUCHIYA KABANが提供するアフターサポート「永久保証」の対象として、愛用品とともに歩み続けることができる。
各モデル60本ずつの数量限定という希少性もあり、わずか1日でほぼ完売に近づくほどの反応が寄せられている。

60周年を記念した取り組みは、商品開発にとどまらない。7月29日から始まったInstagramキャンペーンでは、長年使い続けている愛用品の写真とエピソードを募集。選ばれた30名には、特別製作された「ナチューラ ヌメ革Lファスナー」が贈られる。また、投稿されたエピソードの一部は、ブランドのSNSやメルマガでも紹介されていく予定だ。

直営店でも、60周年ならではの企画が続く。全国の店舗では、店頭スタッフに「愛用品」またはキャンペーン投稿画面を見せることで、矢印モチーフをあしらったオリジナルのマスキングテープが数量限定で配布される(なくなり次第終了)。
また、丸の内店・京都店では、これまでの特別プロダクトを一堂に展示する企画『「運ぶ」を楽しむ』展も開催中。2020年に第1作「スイカを運ぶ」から始まった同シリーズは、鞄職人の遊び心と技術力が結実した全6作。最新作となる「棚橋弘至選手の魂を運ぶランドセル」も含め、これまでのユニークな専用鞄が一堂に会する展示となっている。

使い捨てるのではなく、手をかけながら使い続けていく。そんな道具との関係を、これからの暮らしの中でも選び取っていくこと。それは、鞄を手に取る私たち一人ひとりの姿勢にも、静かに問いかけてくる。
矢印が示すのは、ブランドの未来だけではない。使う人それぞれの「持つこと」への向き合い方にも、新たな視点をもたらしてくれる。